児童生徒名簿管理や成績処理でのICTを活用が随分進んでまいりました。皆さんの周囲で、次のような課題はありませんか。
1「帳票様式の変更が必要。異動した前任者が作ったプログラムがどうなっているのかわからない。」
2「コピー、貼り付けの繰り返しで、行や列がずれていないか心配だ。」
3「3年生の1年次からの成績を参照したい。そのたびに金庫を開けて指導要録を見ることはなかなかできないな。」
4「[名簿(改).xls][名簿(新).xls][コピー?名簿(新).xls]最新のファイルはどれだろう。」
5「USBメモリが読めなくなった。」「教科評価票を学級一覧表にまとめます。USBメモリを、何回も差し換えて...間違えないようにせねば。」
このような課題に、教育センターでは、「教師の手作り成績処理システムから、情報技術者の開発によるシステムの導入へ」を方策に、『ICTを活用した名簿・評価等の校務に関する研究』を研究員の皆さんと開始しました。これは、「教育の情報化に関する手引(文部科学省)」から読み取れる次のような目的にも沿ったものです。
1 効率的な校務により、児童生徒に接する時間を増やす。
2 情報の活用により、今まで以上に教育活動の質を改善する。
しかし、「本当に楽になるの。」という懸念を耳にします。「PCは道具です。使う戦略がなければ、効率化が実現されないのは当たり前」と漠然と切り返される方もあります。が、もっと具体的に実のある導入に必要と思われるふたつの視点を提案します。
第一は、ソフトウエアには、自然なメニュー構成が必要だということです。Microsoft Wordは、2003から2007へと変貌しました。1行40文字を設定したいが、メニューがない。気づくと小さな角にその機能が。いよいよ保存しようと思ったら「ファイルメニュー」がない。あっちをクリック、こっちをクリック。マウスで机をコツコツいらいら。左の上の大きな丸ボタン、こんなところにあったか「ファイルメニュー」。慣れたかなと思ったら、次バージョン2010では、「ファイルメニュー」が復活。文書を考える負担より操作にいらいらする。こんなことはありませんか。
校務支援ソフトをいくつか見てきたデモの時です。「名簿を原簿に一元化し、必要に応じExcelに書き出し再利用したい。」ところが、どう操作すればそれができるのかがわかりません。業者の方から「できません。どうしてもなら、隠しメニューがあります。」の答え。「情報セキュリティと利便性」は、相反するものですが、管理者と利用者の一線がどこに引かれているかは、開発思想に関わる大切な選択基準です。教職員の自然な仕事の手順にメニューが現れて欲しいものです。「マニュアルも豊富に用意します。」では駄目です。マニュアルが無くても直感でサクサク使える操作性が必要です。
第二は、「人」が大切だからこその導入であるということです。「人が最も大切だ、だからPCの導入は、後回し」ではなく、校務の軽減は指導に直接関わる時間を作り、それは人の増員の効果があります。人件費ひとり分のシステムが、市内全小中学校で何人分もの仕事をし、実質的に子どもと接する人の数を増やすのです。中央教育審議会「児童生徒の学習評価の在り方に関するワーキンググループ」は、平成22年の中間まとめで「学習評価に当たり,その妥当性,信頼性等を高めるとともに,教師の負担の軽減を図るためには,情報通信技術を活用していくことも重要である。」と述べています。私にはこう聞こえます。「妥当性,信頼性等を高めなければなりません。そのために情報通信技術を活用せねば、負担が重く増加し、子ども達との時間は減ります。」と。「評価の妥当性,信頼性」と「ICTの活用」は、セットです。私達が子ども達と直接関わる時間は、ICTの活用をすれば「増える」というよりも、活用しなければ「確保」できないのかもしれません。だから、「情報化により削減できた時間を新たな事務仕事に費やしてはならない」と思います。
さて、新たな取組は、良いことばかりではないでしょう。慣れるまでは、「自作ソフトの方が使いやすかった。」と思われることもあるかもしれません。しかし、所期の課題や目的を忘れず、決してICT活用の目的がICT化自身となってしまうことなく、「導入して良かった」と言われる日が来ることを願ってやみません。越えなければならない一山だと考えますが、いかがでしょうか。
続きを隠す<<