あと50年 -情報教育も創世紀-
「対抗教育」と「適応教育」
紀伊國屋書店新宿本店'98年12月7日?12月13日コンピュータ関連書籍売上ベスト3
1.ハッカージャパン(白夜書房)
2.コンピュータ悪のマニュアル2(データハウス)
3.年賀状CD-ROM1999(インプレス)
パソコンを使う人のほとんどは、何らかの関連書籍を購入するだろうことから推測すると恐ろしいデータです。ほんの1,2年前ならワープロや表計算のマニュアル本が上位を占めていたのに。コンピュータ犯罪が、ごく一部の専門家やマニアの話題ではなくなって来ていることを感じさせます。市内の書店でも平積みの真ん中に上位2冊は鎮座しております。そこに、杉並区の女性がインターネットを通じて購入した毒物で自殺した事件。たとえ法整備や規制、取締がいくら強化されようとも、そこに矛盾を感じます。そのためには犯罪技術?を越える技術が常に必要となり、そのすぐれた技術は悪用するためにも優れたものとなる、といういたちごっこを繰り返す事になるからです。
情報化の進展は、様々な可能性を広げる「光」の部分と同時に「影」の部分も伴い、だからこそ対処できる教育が必要となる。「セキュリティとモラルの維持を支える最善の方法は”教育”にある。」というわけです。これは、「対抗教育」という範疇のものでしょう。
売上げ3位の「年賀状CD-ROM」。年賀状作成に、郵便番号帳をひっくり返して「面倒くさくなったなあ」とぼやいたか、パソコンで自動的に印刷される住所や郵便番号に「これは便利になった」と、にやっとされたか、あなたは「郵便番号7桁化」をどう克服されたでしょう。綺麗なカラープリンタ印刷の中で、手書きがちらっとあると「やっぱり味わいあるなあ」と、今まで以上に感じられたかもしれません。プリンタ印刷されたものにも、かなりの苦労があったろうことはしみじみ感じられるのですけれどね。
郵便番号7桁化は、家庭でのパソコン利用を一気に押し進めるであろうこと、おそらくそれは年末の年賀状作成の時期に来るだろうことを予感させるものでした。郵政省では、「インクジェット用年賀状」なんて、普通葉書と同じ値段で提供してくれるというしゃれたこともしてくれました。「7桁化」は、コンピュータ利用者には、メリットが大きく、そうでなければ、不便になるような制度変更です。さて、家庭から離れ、これが職場で文書発送業務であればどうでしょう。大量になればなるほど、時間削減、人員削減の効果は大きく、また、その仕事をするためには、コンピュータを使うことが余儀なくされるでしょう。これはほんの一例ですが「将来働くためには、読み書きパソコンくらいは」というわけです。これは、「適応教育」と言われるものです。
子どもの可能性を援助する教育
4年前の調査で市内の90.5%の小学生が「学校や教室にパソコンがあったらよい」と答えています。教職員も、「興味関心を高め、調べ学習に効果的」「自己教育力育成」「広い視野」「学校が楽しくなる」「習熟度に対応した教育」といったところに多くの期待が寄せられています。パソコンを使った授業を参観された方は、子どもたちの楽しそうな、そして真剣な眼差しに、授業者、参観者も一緒になって、あっという間を過ごされた経験がおありではないでしょうか。この期待には、「対抗」、「適応」とは異なった願いが込められています。今回この「あふり所報」では、教育相談に関するページが割かれていますが、学校に行くのがおっくうになっている子どもたちの中からも「パソコンをやりたい」という声を耳にしてきました。多くの子どもたちのつぶやきがそこから聞こえるように感じます。
教育センターの私も所属する「小学校コンピュータ検討委員会(小学校10名、教育委員会2名)」では、このような視点からも次の「小学校へのコンピュータ導入についての基本的な考え方」を提案しています。「学習素材を豊かにし、興味・関心を広く豊かにしよう」 「創作、表現活動、調べ学習、探求的な学習活動を豊かにしよう」「道具としての活用を図りながら、コンピュータに慣れ親しむようにしていこう」 コンピュータを利用する具体的場面として、 「表現力を高めるための道具としてのコンピュータ」「楽しさを味わう道具としてのコンピュータ」 「コミュニケーションの道具としてコンピュータ」「直接体験を大切に思うからこそのコンピュータ」 「授業が変わるきっかけとしてのコンピュータ」を模索し、楽しく授業研究を続けています。
これからの50年
「CPU(数ミリ角のパソコン中枢頭脳)は、18ヶ月に2倍の割合で処理能力が進化する。」これは世界最大手のCPUメーカー、インテル社会長のゴードン・ムーア博士が1985年に唱えた「ムーアの法則」です。事実その通りに進化しています。その原型「8080」と呼ばれるチップは、日本人、嶋正利氏が開発したものでした。その素材は「砂」だそうです。「材料が必要だった。われわれは、この地球に目をつけた。地球はほとんど砂でできているではないか。」
そして、このチップを配線(印刷)する土台(ウエハー)は、もちろん真っ平らでなければなりません。実はこの超精密研磨技術は日本の取り柄で、本当に平滑かどうかを、技師が横から肉眼で最終検査している職人技の映像を見たことがあります。この会社は厚木市にもあって、近隣の大学とも共同研究をしています。
数年前の夏にメモリの価格が激しく高騰したことがありました。何が起きたのだろうと思うと、チップを固めている焦茶色の樹脂が世界市場に出回らなくなったというのです。実は、その生産技術を持ち、世界のほとんどの生産を一手に受けていた工場が火災にあったとの事。その工場は愛知県にありました。
今の職場で一番古いパソコンを使っている私が、次の条件を満たす新型の登場を待って1年が経ちました。「1日外出に耐えうるバッテリー」「机上型と同等の高速処理、大容量記憶」「毎日持ち歩ける小ささ」、あー何て無理な注文。それがついに登場したのです。購入してもうすぐ1ヶ月。無骨な机上型が海外製品であふれる中、スマートな最小のノート型パソコンの現在の革命に名を連ねるのは、小さい物を作るのはお得意芸の日本製品群です。「将来コンピュータの重量は、1.5トン以下になるかも知れない。」とは、1949年米ポピュラーメカニクス誌の予測。30年前に誰も考えなかった携帯型ノートパソコンの原型となる「ダイナブック」構想を提唱したのは、アラン・ケイ氏。彼は言います。「本でさえ、ダイヤモンドを埋め込まれた最初の印刷書物が出てから、現在のように誰でも手に取る事ができるようになるまでにどれだけの時間がかかったろう。未だマルチメディア革命は起きていない。これにはあと50年が必要だ。」と。
とりあえずこれから起こる革命は、ひとり1台の携帯端末とひと
り1本の無線通信帯域だそうです。「何のために?」がわからないので、「さて、それで何ができるんだろう。」と受け身です。自分にとって都合が悪いものでなければ活用しようと考えるのですが、都合が悪い物が出てきたら「わからない」では困りますね。あー、何て楽天的。 先のケイ氏は、マーシャル・マクルーハン氏の言葉を引用し、こんなことを言っています。"I don't know who discovered water, but it wasn't a fish."(「誰が水を発見したかは知りませんが、それは魚では無かったでしょう。」)魚は今でも気づいていないかもしれません。釣り上げられて始めて、「お、何だ?」と思うのでしょうか。私も、50年後に生きていたら90歳。今の水が何なのかが、わかるかもしれません。その時にも、楽しく真剣な眼差しをしている10歳の子ども達は、たくさんいるんですよね。あ、魚と言えば、「私に魚を1匹ください。それで1日を生きます。私に魚の釣り方を教えてください。それで生涯を生きます。」とは、中国のことわざだったでしょうか?
参考文献:『新・コンピュータと教育』佐伯胖著(岩波新書)
『シリーズ教育の間7「教師とメディアの間」』大島聡著(大修館)
『アラン・ケイ』(アスキー)
(株)岡本工作機械製作所ホームページ)
http://www.okamoto.co.jp/outline/index.html
1999年1月伊勢原市教育センター所報第50号(改)
後日メモ:Fish Out Of Water 未知への飛翔 by Chris Squire-Solo Album
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